無人店舗のメリット・デメリットとは?仕組みや事例も合わせて紹介
無人コンビニが大きな話題になったのをきっかけに、無人店舗という考え方が広く知られるようになりました。しかし、これまで人の手で店舗を運営・管理してきた小売業界にとって、無人店舗にどのようなメリットがあるか想像しにくいことも多いでしょう。
本記事では、無人店舗のメリット・デメリットを中心に、仕組みや事例も合わせてご紹介します。
目 次
無人店舗とは
無人店舗とは、IDカードやスマホによる本人認証、センサーやカメラによる防犯機能、商品に取りつけたICタグ、キャッシュレス決済などさまざまなデジタル技術を組み合わせることで、店頭に人を設置しなくても済むようになった店舗のことを指します。
とはいえ、完全に店舗に人がいないというわけではなく、店頭で案内やレジ打ちをする人はいないものの、万が一のトラブルに備えてバックヤードに最小限の店舗スタッフを配置しているケースがほとんどです。
無人店舗の仕組み
無人店舗の大まかな仕組みは、以下のようになっています。
- 店舗入口でICカードやスマホ認証、入店
- 購入したい商品のバーコードやICタグをレジで認識
- キャッシュレス決済し、退店
無人店舗では、入店した顧客の動きを店内に設置されたカメラが認識・追尾します。カメラに搭載されたAIがどんな商品を手に取ったかだけでなく、やめて棚に戻したかどうかなども認識するため、手に取ったら商品を購入すると認識される、ということはありません。
商品の認識方法は、こうしたカメラ・ICタグによる自動認識の他、セルフレジを通さなくてはならないこともあります。さらに、棚に重量を測る機能を搭載し、在庫が減ったかどうか認識できるようにしている店舗もあり、在庫管理に一役買っています。
決済方法はキャッシュレス決済が主流です。現金で支払える無人店舗の実験もされてはいるものの、無人店舗の場合はキャッシュレス決済の方が簡便かつ防犯性に優れているため、今後は無人店舗ではすべてキャッシュレス決済になっていくのではないでしょうか。
無人店舗の例
2020年5月、高輪ゲートウェイに無人コンビニがオープンしたのは有名です。店内にカメラや赤外線センサー、棚の重量センサーを設置したことに加え、AIによる画像分析などを活用し、店内スタッフの無人化に成功しました。現在はバックヤードに店舗スタッフがいて、万が一のトラブルにも対応できるようにしています。
他にも、デジタル化やIT化が急速に進む中国では、ミニカラオケと呼ばれるカラオケボックスの無人店舗、無人のジムボックスサービスなどが登場ました。1〜2人用のスペースとしてボックスが設置されているため、こちらは完全無人を実現しています。スマホで登録や決済ができ、24時間いつでも手軽に利用できることから人気を集めています。
無人店舗とレジ無し店舗、ダークストアの違い
無人店舗と誤解されやすい、2つの店舗形態について解説します。
レジ無し店舗…ウォークスルー店舗とも呼ばれ、店舗運営・商品管理には人が関わっているが、会計は自動で行われるため、店内でレジに並んだり現金や決済画面を表示したりする必要はないという店舗形態です。スマホアプリのバーコードを使って入店し、購入したい商品を持って店を出れば、事前に登録されたクレジットカード情報で決済されるという仕組みです。レジ待ちの手間や、商品を持っているときにわざわざ財布やスマホを取り出す手間がありません。
ダークストア…いわゆる実店舗と同じように陳列はされており、店舗運営にも人の手が関わっているものの、消費者自身が直接足を運ぶことはない店舗形態です。多くはネットで注文した商品をダークストアでピックアップし、配送するという流れです。このため、ECストアにおいて、配送の拠点として使われる店舗も含みます。
無人店舗で押さえるべきポイント
無人店舗を運営する際、おさえておくべきポイントがあります。決済方法や防犯対策をする際は、以下の内容を意識したうえで取り組みましょう。
利用者の合わせた決済方法を導入する
無人店舗ビジネスにおいて必要なもののひとつに、正確かつ自動で決済できるシステムがあります。決済システムは複数あるため、顧客が使いやすいものを選ぶのがポイントです。主な決済方法としては、以下のものがあります。
- 現金
- クレジットカード
- 電子マネー
- 決済アプリ
- QRコード
たとえば、学生や共働き世代は、クレジットカードや電子マネーでの支払いに慣れている方が比較的多い傾向にあります。現金を持ち歩かず、すべてカードやアプリ決済で済ませてしまう方も珍しくはありません。
一方、中高年層の中には、現金以外の支払いに苦手意識を持っている方もいます。
カードやアプリ払いだけでなく、だれでも支払いやすい現金も使えるようにすれば、幅広い利用者層を確保できます。無人店舗を展開する際は、店舗地域の客層を正確に把握したうえで支払い方法を決定しましょう。
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防犯対策は万全に
無人店舗は便利な一方、盗難や不法侵入などのトラブルが発生する恐れがあります。防犯対策を入念に行うことも大切です。現在運営されている無人店舗では、以下のような対策が取られています。
- 監視カメラや各種センサーの導入
- AIカメラによる不審者チェックシステム
- セキュリティーゲートや入出管理システムの設置
- オートロックの導入
盗難対策では、ひとつのシステムに頼るのではなく、複数を組み合わせてシステム同士の穴を埋められるように設置するのがポイントです。導入時は想定できるトラブルとその対策をセットで考え、実施しましょう。
無人店舗のメリット
無人店舗のメリットとして、消費者側と企業側の両面から見ていきましょう。
消費者のメリット
消費者にとって無人店舗は、スムーズな購買体験ができること、非接触で買い物ができるため感染症対策になることの2つのメリットがあります。無人店舗では店舗スタッフに話しかけられたり、レジでキャッシュレス決済を選ぶ際に口頭で伝えなくてはならなかったりすることがありません。購買ステップがサクサクと進むため、レジ待ちの時間も発生しにくくなります。
また、新型コロナウイルス感染症の流行を受け、店舗スタッフや他の顧客と接触してしまうリスクをできるだけ減らしたいと思う消費者が増えています。商品を手に取ってから袋詰めまですべて消費者自身が行う無人店舗なら、人と接触するリスクを極力減らせて安心です。店舗入口での認証の際、「店舗内に◯人まで入店許可」といった制限を設けていれば、密を避ける仕組みも簡単に構築できます。
企業のメリット
企業側にとっても、無人店舗にはさまざまなメリットがあります。ここでは、代表的な以下の3つのメリットを解説します。
- 省人化による人手不足問題の解決
- 顧客データの収集・活用
- 万引きや強盗の防止
小売業界が抱える人手不足の問題は深刻化の一途を辿っていますが、無人店舗では店舗スタッフの人数を最小限に削減できるため、生産年齢人口の減少にも対応しやすいです。また、最小限配置される店舗スタッフにとっても各種デジタル技術が業務効率化に寄与してくれれば、店舗運営や事業企画などより高度な業務に集中できます。
顧客データの収集にも、無人店舗は大きく貢献します。店内に搭載されたセンサーやカメラ、決済システムなどから、個人情報と紐づけられないような来店者の情報(年代、性別、店内の行動履歴など)、購買履歴などを収集できます。収集されたデータは店舗内のより良い陳列や商品の仕入れ、クーポンなどのプロモーションに活用されます。
また、無人店舗はセキュリティ面が心配になるかもしれませんが、むしろ有人店舗よりも防犯面で優れている面が多いです。入店時には個人のIDカードやスマホ認証があり、店内にはカメラやセンサーが張り巡らされ、決済もキャッシュレスで行われる無人店舗では、万引きや強盗を行ってもすぐにわかってしまいます。そもそもレジ内に現金がないため、強盗を行う意味もなく、無人であることから店舗スタッフに危害が及ぶ心配もありません。
無人店舗のデメリット
一方で、無人店舗には以下のデメリットもあります。
- 初期費用の負担
- 年齢認証や宅配便、公共料金の支払いなど、イレギュラー業務が行いにくい
有人店舗と比べ、無人店舗は初めに各種認証機器やセンサー、カメラ、キャッシュレス決済システムなど、さまざまなIT機器を設置する必要があります。このため、導入する企業にはどうしても初期費用の負担が生じてしまいます。とはいえ、店舗スタッフを雇う月額のランニングコストがかからないことを考えると、最初にお金がかかるか、後からかかるかの違いとも言えるでしょう。
また、高輪ゲートウェイの事例のようにコンビニを無人店舗にする場合、タバコやお酒など年齢確認が必要な商品の販売をどう行うか、宅配便や公共料金の支払いなどイレギュラー業務をどうするかという課題が残ります。これについては、今後のデジタル技術の発達を待つか、イレギュラー業務担当の店舗スタッフを配置する必要が出てくるかもしれません。
一部の消費者にとっては、心理的ハードルが高いという点もデメリットに挙げられます。キャッシュレス決済が大きく広まる昨今でも、高齢者など現金での決済にこだわりを持つ層が一定数いることは事実です。また、利便性が高いものの全く新しい購買体験に漠然とした不安を感じる人も多いでしょう。導入にあたっては、消費者の心理的ハードルを下げるような施策を打ち出すことも必要かもしれません。
無人店舗のデメリットを補完する戦略
無人店舗のデメリットは、適切な対策を取れば影響を最小限に抑えられます。店舗運営の際は、以下の対策を実施しましょう。
費用面での対策
費用面では、小規模店舗からの展開が有効です。効果が出る前に大型店舗を展開してしまうと、その分回収しなくてはならない初期費用もかさんでしまいます。
小規模店舗なら回収する費用も少ないため、思ったような効果を得られなくても経営に与える影響を最小限に抑えられるでしょう。
また、導入に当たり補助金や支援金を活用するのもいい方法です。国や地方団体が運営している補助金や支援金の中には、DX化による人手不足解消を目的としたものもあります。
無人店舗の初期費用や運営費用をカバーできるものもあり、費用面でのダメージを抑えるのに有効です。
補助金や支援金は制度利用のための条件が決められています。利用を検討する際は、自社が審査や応募条件に該当するかをよく吟味したうえで応募先を決定しましょう。
技術的な問題への対策
無人店舗の課題として、年齢確認などのイレギュラー対応があります。これらの課題解決に有効なのが、AIや専用システムの導入です。
たとえば、コンビニチェーンのローソンが現在実証実験を行っているシステムのひとつに、専用機械に免許証などを読み込ませて年齢確認するものがあります。
このほか、同じコンビニチェーンのファミリーマートでは、レジに取り付けられたカメラ映像からバックヤードにいる店員が目視や免許証の画像を通して確認するシステムを導入しています。
イレギュラー対応は無人店舗において課題となりがちなデメリットですが、システムを利用すれば解決も可能です。
あわせて事前にイレギュラー対応ができる日時や対応フローチャートなどを作成しておけば、無人店舗でも顧客に不便を感じさせない対応ができます。
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消費者の抵抗感への対策
無人店舗が抱える課題は、運営上の問題だけではありません。顧客の心理的なハードルも大きな課題のひとつです。顧客が利用に対して抵抗感を感じる内容は複数ありますが、想定できる原因ごとに対応すれば解決できます。
たとえば、利用方法が顧客離脱につながる恐れがある場合、以下の方法が有効です。
- 新規顧客向けのスタッフによる説明やデモンストレーション
- ガイドラインやチュートリアルの設置
レジの使用方法に対する不安が想定される場合、上記の方法に加え入り口やレジに使い方ガイドのPOPを設置する方法も効果的です。
店舗に入る前に使える支払い方法を分かりやすく提示しておけば、支払いの段階で使える方法がないことに気がつくなどのトラブルも予防できます。
このほか、チラシやSNSで利用方法を付けた告知を行うのもおすすめです。顧客の心理的ハードルを下げる戦略は、入店時はもちろん入店前にも対策できます。
まとめ
無人店舗とは、入店から決済、退店まで人の手を介することなく商品を選定・購入できる店舗のことを指します。消費者にとってはスムーズな購買体験や非接触による安心感、企業にとっては人手不足解消や万引き・強盗防止に役立つというメリットがあります。一方で初期費用やイレギュラー業務、消費者の心理的ハードルなどの課題もありますので、導入は慎重に検討しましょう。