スーパーでダイナミックプライシング導入。期待できる効果と導入準備を解説
近年、スーパーマーケットにおける食品ロス軽減のための試みの一つ、または店舗DXの一環として、ダイナミックプライシングに注目が集まっています。では、ダイナミックプライシングとはどのような仕組みで、スーパーでどのような効果が期待できるのでしょうか。
本記事では、ダイナミックプライシングの概要や日本国内で既に行われている実証実験、海外におけるスーパーでのダイナミックプライシングの活用事例や、ダイナミックプライシングの導入に必要な設備についてご紹介します。
目 次
ダイナミックプライシングとは
ダイナミックプライシングとは、商品やサービスの需要や品質などに応じて、その価格を変動させる仕組みのことです。この仕組みは、ホテルの宿泊料金、航空券、Jリーグの試合等のスポーツチケット、高速バスのチケットなどの価格設定で用いられています。例えば、年末年始やお盆などの繁忙期には航空券が高くなり、閑散期には航空券が安く買える、といった具合です。
ダイナミックプライシングで得られる効果
ダイナミックプライシングを用いると、企業にとっても消費者にとってもメリットがあります。
<企業のメリット>
- 保有設備と人材を有効活用できる…価格を変更し繁忙期と閑散期の需要をある程度コントロールすることで、企業が保有する各種リソースを効率的に使える
- 収益の最大化…需要が高まっているときにはより高い価格で利益を増やし、収益を高めることができる ・リスク管理…需要が落ち着いているときに価格を下げることで消費者の購買意欲を促進し、無駄な在庫や廃棄などのリスクを減らすことができる
<消費者のメリット>
利用のタイミングを閑散期、または低需要時に合わせれば、ダイナミックプライシングによってリーズナブルな価格で商品を購入したり、サービスを受けたりできる。
ダイナミックプライシングの実証実験
食品小売店舗では、これまでも賞味期限の近い商品を手前側に配置するなどして売れるように工夫を行ってきました。しかし、消費者は棚の奥から賞味期限の遠い商品を取り出して購入することも多く、商品の賞味期限切れで廃棄せざるを得なくなってしまうことも少なくありませんでした。
この問題を解決する手法として注目を集めているのがダイナミックプライシングであり、2022年の初頭には、食品小売店舗においてダイナミックプライシングの実証実験が行われています。本実証実験では、商品に消費期限別に異なるラベルをつけ、それらラベルによって商品を値引きする仕組みが試されました。
ダイナミックプライシングの特許
2022年4月には、小売店舗でのダイナミックプライシングに関する特許を取得した企業も登場しました。これは、商品の適切な価格をAIシステムが自動決定し、その時点の販売価格をスマホで消費者に伝える仕組みを特許申請したものでした。
このように、日本においてもダイナミックプライシングの実証実験が行われています。また、社会全体にテクノロジーを活用するDX化推進の機運があり、関連特許を取得した企業も現れています。ダイナミックプライシングは今後、幅広いビジネスシーンでの利用が広まる可能性があると言えるでしょう。
スーパーでのダイナミックプライシング導入で期待できる効果
スーパーでのダイナミックプライシング導入で期待できる効果には、どんなものがあるのでしょうか。
ダイナミックプライシング導入で得られるメリット
スーパーでダイナミックプライシングを導入することで、以下のようなメリットが期待できます。
- 収益性アップ
- 在庫や廃棄の減少
- 顧客満足度の向上
ダイナミックプライシングでは、需要が高まるタイミングに合わせて価格を上げられるため、価格を固定している場合と比べて収益を上げやすくなります。また、割引された鮮度の落ちた食品を購入する人が増えれば、抱えた在庫や食品ロスの減少につながるでしょう。さらに、一部の消費者は鮮度よりも価格を重視するため、ダイナミックプライシングの導入は顧客満足度の向上にもつながります。
ダイナミックプライシング導入に伴うデメリット
- 顧客が通常価格での購入を不公平と感じ始める可能性がある
- 導入には関連機器への初期投資が必要
損をしたくないという感情は、誰しもが抱きうるものです。ダイナミックプライシングで販売価格に差が生まれすぎると、通常価格での販売に悪影響を出す恐れがあります。また、ダイナミックプライシングには購買データや廃棄データをリアルタイム管理できるシステムで、一定の導入コストが必要です。
欧州でのスーパーへのダイナミックプライシング活用事例
欧州では、既にスーパーマーケットでのダイナミックプライシングの活用が広まっています。例えば、オランダの有名スーパーマーケットチェーンでは、食品ロス削減と収益向上を目的としたダイナミックプライシングを行っています。具体的には、以下の手順です。
- スマホや業務用PDAなどのバーコードリーダーを使い、消費期限データを集める
- ダイナミックプライシングシステムを使い、在庫管理システムに消費期限データを同期
- 電子タグと在庫管理システムで、店舗内にどの商品がどのくらいあるか把握
- 食品の消費期限や曜日、天気など収集した複数の要因に基づき、機械学習で価格を算出
- 電子棚札とPOSに最新の価格情報を同期
このように、ダイナミックプライシングでは各商品の在庫数や期限に基づいてリアルタイムで値下げを行います。消費者は、価格や鮮度などの自らが重視する要素に基づいて購買を行うことができます。この例では成果が発表されていませんが、スペインの他の小売企業と実施した実証実験では、食品ロスを1/3削減し、収益を6.3%増加させられたとのデータがあります。
スーパーでのダイナミックプライシング導入に必要な設備
ダイナミックプライシングに必要なリアルタイムのデータ管理を、人力で行うのは難しいでしょう。以降では、ダイナミックプライシングを導入するために必要なシステムの例について解説します。
RFID
RFIDとは「Radio Frequency Identification」の略で、無線や電波をワイヤレスに送受信することで、非接触にICタグのデータを読み書きする「自動認識技術」の一つです。類似機能を持つバーコードは記憶できる情報が圧倒的に少ないほか、ICタグの同時読み取りが難しいため、RFIDを用いるのがより効率的です。
ダイナミックプライシングにおいては、RFIDを利用して食品情報を追跡管理することで、鮮度に応じた価格設定が可能になります。RFIDでは生産情報やいつ入荷してどのくらい売れたかなどの細かい情報まで記録できるため、在庫管理にも役立てられます。
RFIDについて詳しくは、以下の記事で紹介しています。
「RFIDをスーパーで活用するには?メリットや実証実験をご紹介」
電子棚札
電子棚札とは、店頭で表示する値札をデジタル表示にしたものです。英語表記の「Electric Shelf Label」から、「ESL」とも呼ばれます。紙値札のように印刷したり、書いたり、裁断したり、貼り直したりする手間がなく、表示内容の変更は電子操作により一括で行えます。また、電子棚札は表示内容にバーコードや在庫数、商品情報やクーポンやセール情報なども加えられるため、様々な応用可能性を持っていると言えます。
在庫管理システム
在庫管理システムとは、入荷した商品や店頭に並んでいる商品の在庫を管理できるシステムです。本システム運用時には、レジを通過した商品を自動的に減らしていく必要があるため、POSレジと連動して導入されることが多いです。ダイナミックプライシングでは、RFIDと在庫管理システムを連動させて利用することになります。
このように、スーパーでダイナミックプライシングを運用する際には、RFIDと電子棚札、在庫管理システムのようなシステムや機器を導入する必要があるのです。
まとめ
スーパーでのダイナミックプライシングは、収益向上だけでなく、食品ロスの削減などのSDGs関連目標にも貢献できることが分かってきています。実際に、欧米のスーパーでは収益増加と食品ロス削減を達成した事例もあります。
その導入には一定の課題があるとはいえ、ダイナミックプライシングが業務効率化に大きく貢献し得ることは事実です。日本のスーパーにおいても、今後ますます注目が高まっていくのではないでしょうか。